2008年10月1日水曜日

モレスキンノート













モレスキンノートの活用法を悩んでいましたが、

日々の生活の中で感動したことや、記事を集めることにしました。

1ページ目は小説家の鈴木光司さんが娘へ送った「家族へのラブレター」です。

読んでるうちにウルウルきました(ToT)

(娘たちへ)
 君たちと同じ年頃の大学時代、ぼくはレンタカーを乗り継いだり、長距離バスを利用したりして、
ロサンゼルスからニューヨークまで、アメリカ大陸を横断した。結婚する三年前のことであり、きみたちは
まだこの世界に影も形もなかった。
 大学の夏休みを利用した大陸横断は、約四十日間に及び、その間、ぼくは心ゆくまで自由気ままな旅を
満喫した。長距離バスの車内で小説を読みふけったり、ニューメキシコの砂漠に寝転がって満天の星空を見上げたり
しながら、これからの人生について考えたりした。
 小説家になるとういう意思は、とっくにかたまっていたけれど、どのようにして目的を実現すべきなのか、
方法に関してかいもく見当もつかない。野心もあたけれど、将来への不安も大きく、学生という自由な身分が
一生続けばいいとさえ思ったものだ。
 若く、気ままな、行き当たりばったりの旅の中で、ぼくは、ひとつ覚悟した。結婚して家庭を持ち、子供を
育てる人生が始まれば、自由奔放な旅など二度とできないだろうなぁと。
 実際、しばらくは、その通りだった。高校教師であった妻と結婚し、きみたちが生まれると、子育てに追われ、
十年間というもの、保育園の送り迎えと家事育児に専念する所帯染みた生活が続いた。もちろん、
世界放浪の旅に出るどころではない。実家から母を呼んで手伝ってもらわなければ、一泊旅行にすら
出かけることができなかった。でも、その間に念願であった作家デビューを果たし、ベストセラーを出すことが
できた。きみたちからエネルギーをもらったおかげだと思う。
 今年の夏休み、家族でアメリカ旅行に出かけたね。大陸横断までには至らなかったが、十日間という
日程でレンタカーを借り、中西部砂漠地帯を四千キロばかり走り回った。ものすごく楽しかったよ。ザイオンでは、
夜、近くの小山に上り、シートを敷いて寝転がり星空を見上げた。流れ星がひとつふたつ流れると、
きみたちは急に黙り込んでしまったけれど、一体、何を願掛けしたのかな。
 そうやって寝転がる間、ぼくはふと思った。なんだ、学生の頃と同じことやってるじゃん、って。変わって
ないというより、何も失っていなかった。いや逆に、得るものばかりが多かったと感じて、嬉しくなってしまった。
大学最後の夏休み、アメリカ旅行から帰る飛行機の中で、自由気ままな旅行はもうこれでおしまいと
寂しい思いに駆られたけれど、そんなことはない、いくらでもできる。おまけに妻と娘たちという心強い
旅の仲間を得ることができた。
 若いときの旅行よりも、きみたちと一緒に出かける旅行のほうがもっと楽しいだなんて、学生の頃には
思いもよらなかったことだ。
 きみたちも、社会に出たり、結婚したり、子どもを産んだりする前に、不安を持つこともあるだろう。
若さあふれる自由な生活とはこれでお別れ、なんて思うかもしれない。未知の領域に足を踏み込もうとして、
マイナス点をカウントし始めたら、若い頃よりも今のほうがさらに楽しい人生を歩んでいると豪語する父が、
ここにいることを思い出してほしい。大人になるときは、きみたちが思う以上に楽しいことなんだ。

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